木と森林SEVEN COLUMN

2023年03月22日

シリーズコラム『木を見て。森も見る。』 ①日本の森林の現状と役割

「木を見て森を見ず」ということわざがあります。
小さなことや目の前のことに心を奪われて、全体を見渡せていない状態のことですね。
つまり、些細なことにこだわりすぎると、物事の本質や大局を見失ってしまうという格言です。

私たちのような木材を取り扱う建材メーカーは、日々たくさんの木材と向き合っています。
木は癒し効果やSDGsの観点からも再び注目されている資源であり、生活に欠かせないものですよね。

しかし、まさに「木」を見るばかりでは持続可能な社会への活動とはいえません。
木は生き物であり、木を育てる「森」の存在がなければ、事業活動はおろか、私たち人間も動物も、今日のようなくらしや生活環境は成り立たないのです。
木を知り、森を知ること。それが、未来の豊かさを考えるうえで大事な一歩かもしれません。

今回は、シリーズコラム『木を見て。森も見る。』第1弾として、日本の森林の現状や役割についてお話したいと思います。

 



シリーズコラム『木を見て。森も見る。』
①日本の森林の現状と役割

1.昔の山は「はげ山」だった?!
2.森林の荒廃と再生
3.日本の森林率
4.メタボと少子高齢化がすすむ森林
5.森林が果たす8つの役割
6.木を使うことは大切なこと
 




1.昔の山は「はげ山」だった?!


引用:歌川広重『東海道五十三次』= 保永堂板 =より

私たちが普段目にする、現代の日本の山林は多くの木々に覆われていますが、いつの時代もそうだったとは限りません。

例えば、上記の絵は江戸時代に描かれた浮世絵ですが、現在の山林の景色とは少し異なります。
浮世絵画家の美的センスで創作されているのかもしれませんが、豊かに樹木を蓄えた山林には見えません。
 


明治末期の集落と里山(場所は現在の山梨県甲州市塩山)
引用:日経ビジネス「日本には木が多すぎる」より


また、上の写真は浮世絵の頃から約70年後の明治末期の山村集落を撮影したものですが、これも一本松のような樹木がところどころにはありますが、荒れた山肌が露出していることがわかります。

これらから推測すると、現在私たちが目にしているような、たくさんの木々に覆われている山林の姿は、長い歴史の中では稀な状態なのかもしれません。山といえば「はげ山」が当たり前だったかもしれません。



2.森林の荒廃と再生


引用:森林・林業学習館「日本における木材利用の歴史」より

山林は樹木を生産する場所ですが、はげ山の時代はその生産が需要に追い付いていなかったといえます。
樹木は伐採され、建築用材として利用されるほかに、一般家庭では煮炊きや暖房、お風呂の燃料として、産業向けには窯業や鉱工業の燃料や木炭として大量に消費されてきました。

現在のような山林の姿が出来上がったのは、第二次世界大戦後に行われた「拡大造林」によるところが大きいです。拡大造林とは、薪炭林(広葉樹林)や天然林を開拓してスギ、ヒノキを植栽した人工林を造成することです。



3.日本の森林率

ではここで、現代の日本の森林にまつわるデータを見てみましょう。
まずは、世界でみた森林率の高い上位国を表したグラフです。森林率とは、陸地面積に対する森林面積の割合のことです。

先進国(OECD加盟国)のなかで日本の森林率は第3位となっており、世界有数の森林国といえます。日本の国土の68%、約3分の2を森林が占めているんですね。

日本は資源のない国とよくいわれますが、森林資源については乏しいわけではなく、実は使われずにいるという現状もあります。


引用:FAOの資料(世界森林資源評価2010(FRA2010))より
※面積の算出根拠(湖沼面積の含有の有無等)が違うため、下記の日本の森林率(67%)とは多少差があります。



続いて、日本国内の都道府県別でみた森林率のデータです。
第1位は高知県で森林率84%、第2位は岐阜県で81%、第3位は長野県の79%となっています。


引用:林野庁津系情報 都道府県別森林率・人工林率(平成24年3月31日現在)より


当社が拠点を置く岐阜県は、飛騨山脈をはじめとする山岳地帯によって大部分が占められる飛騨地方など、自然豊かな県として知られています。
また、大手ゼネコンの清水建設と岐阜県立森林文化アカデミーが連携協定を締結するなど、森林保護の動きが進んでいます。この連携協定は森と人の共生を目指し、森林再生などの分野を共同で推進していくものです。



4.メタボと少子高齢化がすすむ森林

過去50年間をみると、森林の面積はほとんど変わっていませんが、1960年~70年代は拡大造林の展開により、天然林から人工林に転換されてきたことが分かります。

森林の蓄積量は人工林を中心に増加の一途をたどっています。人工林は50年間で約6倍にも膨れ上がっており、森林はさながら過密状態で、人に例えて言えば「メタボ状態」ともいえます。
 


引用:nippon.comより


森林の林齢構成はどうなっているでしょうか。
林齢を5年の幅でくくった単位を「1齢級」として、齢級別の人工林面積を見てみると、10~12齢級、つまり50~60年の人工林が半分近くを占めており、多くの森林は伐り時、使い時を迎えているわけです。


引用:森林・林業学習館「日本の森林の高齢化と世代交代」より


日本の森林は、豊富な資源が十分に活用されておらず、いわば「少子高齢化」も進んでいるのです。高齢化した大径木は、太すぎて製材が難しいため用途が少なく、採算が取れないことから伐採されないまま残されているのが現状です。
また、成長盛りの若い木ほど二酸化炭素をよく吸収し、40年を過ぎた頃から吸収率は激減してしまうため、高齢化した森林は温暖化防止への貢献度も期待できません。

木材利用の持続可能性や温暖化防止の観点からも、メタボ、少子高齢化の状態は好ましいものではありません。

戦後の拡大造林で先人たちによって植林されたスギ、ヒノキを有効に使うことが現代の私たちに課せられた使命であるともいえます。



5.森林が果たす8つの役割


引用:政府内閣オンライン「木材を使用して、元気な森林を取り戻そう!」より

森は、水源を豊かにし、土砂災害を抑え、人の心を癒してくれるなど、人が生きる環境を守るためにさまざまな役割を果たしてくれています。

森林が果たす役割にはどのようなものがあるか見てみましょう。

1.生物多様性保全機能 … 多様な動植物が生育する場を提供する
2.地球環境保全機能 … 温室効果ガスであるCO2の吸収源となる
3.土壌保全 … 土砂災害防止保全機能 … 雨水によって山肌が削り取られることを防ぐ
4.水源涵養機能 … 雨水を地中に蓄え河川の急激な増水を防ぎ、安定した水の供給源となる
5.快適環境形成機能 … 人が生活する上で害となる風、日差し、騒音などを和らげる
6.保健・レクリエーション機能 … 心身の健康を増進させ余暇を過ごす場を提供する
7.文化・教養機能 … 山林を舞台とした伝統的文化活動や景観の美しさから芸術活動の題材となる
8.物質生産活動 … 木材や山菜、キノコなどを生産、供給する場となる

この中で、一部の貨幣評価できるものだけでも年間70兆円の経済効果が見込まれるそうです。

森林がもたらす恩恵を未来につなぎ持続させるためには、はげ山でもメタボでも少子高齢化でもなく、やはり森林を健康で元気な状態に保つことが重要です。



6.木を使うことは大切なこと

これまで見てきたように、日本は世界でも有数の森林国であり、森林資源は年々増加しているにもかかわらず、木材の利用は十分に進んでいないのが現状です。

木材を使うことは、「伐って、使って、植えて、育てる」というサイクルの一部です。
森林の持つ多くの働きを健全に保つためにも、木材を使って森を育てることは大切なことです。

「伐採」と聞くと、森林破壊のような良くないイメージを持つ方もいるかもしれませんが、適切に伐採し木を使うことは、本来自然を守るために必要な作業なんですね。

まずは、私たち一人一人が森林の働きを理解し、その重要性を認識することからはじめませんか?


ウッドコレクション2022inあいち 当社ブース掲示ポスター


『木を見て。森も見る。』コラム第2弾は、木材の流通や活用についてのお話をお届けする予定です。

― To be continued —

 

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